2022年 新春経済交流会の報告
文責: 専任理事 奥田久美
令和4年新春経済交流会は、Zoomを用いたオンライン形式で、2022年1月30日 (日)午後1時から、荒木隆司常務理事の司会により開催された。講師は、本同窓会理事でもある、iU (情報経営イノベーション専門職大学)学長の中村伊知哉氏。「超ヒマ社会をつくる」と題した講演をお聞きした。講演のあと、質疑応答とオンライン上で数人のグループに分かれて交流会を行い、最後に相亰支部長の閉会の挨拶があり、午後3時に終了した。参加者は48名であった。
講演要旨
私は、昭和59年京都大学経済学部卒業で、学生時代はもっぱら西部講堂で少年ナイフというバンドをやっていた。今でも世界で一番有名な日本のロックバンドだと思う。卒業後、郵政省に入り、橋本内閣の省庁再編で郵政省を総務省にするという作業をして退官。昨年4月にiUという大学を作り、そこの学長になった。ビジネスでは、吉本興業やスペースシャワーの社外取締役を務め、保育の最大手の会社などの社外取締役も務めていた。毎年10月に開催されている京都国際映画祭の実行委員会委員長もしている。
私の使命は、テクノロジー (デジタルとICT)とポップカルチャー (流行文化)を掛け合わせて新しい世界を築いていくことである。
デジタル社会の到来
今同時並行で進んでいるIT革命、デジタル革命、ロボット革命、AI革命という技術進歩が未来を変えることを想像してほしい。
ITの進歩は、1980年代以降、ニューメディア時代、マルチメディアブームを経て、2010年にスマホが出てきて、クラウド、ソーシャル、スマート化でさらに大きく変化している。新しいコミュニケーションツールができてきたが、社会や制度が追い付いていない。
機械が人より賢くなり、自分がやりたくない仕事は機械やスマホに任せることになったら、「超ヒマ社会」が来る。その超ヒマをどのようにクリエイティブに生きるのかのアクションプランを描いたのが、私の「超ヒマ社会を生きる」という本。令和は、スマホ同士がコミュニケーションをとる時代、社会は機械が人の能力を超えていく時代。人はヒマになっても暇つぶしのために仕事をする、本当の遊びが意味を持つ、娯楽、スポーツ、食事、芸術、創作、勉強・学習、シニアが大学に来る時代になる。働き方改革より遊び方改革が必要になる。男女一生の遊びとは何か、このことを考えることが重要になる。
AIが人の能力を超える時代、シンギュラリティの時代は2,045年ごろと言われている。これから25年後の世界がどうなるかを考えるために25年前の世界を振り返ると、GAFAができ、スマホのアプリ、ツイッター、初音ミク、メルカリ、ドローン、ユーチューバー、eスポーツの選手、ウェブデザイナー、データアナリストなど、25年間に新しい仕事が生まれた。今後の25年も新しい仕事が生まれ、人気商売になっていく。AIやロボットが自分の友達になる時代が来る。
新型コロナは社会をどう変えたか
新型コロナは第1次世界大戦、第2次世界大戦に次ぐ戦争。人類対疫病という戦争を戦っている。世界中で、政治と危機管理の実験が同時進行で行われている。政治にさほど権力を与えていない日本は、自粛と忖度で他国よりいい結果を収めている。民の文化が効いている。どう評価されるかはまだわからないが、新たなクールジャパンになるかもしれない。日本のポップな力を外に出そうという運動がクールジャパン。初音ミクは、ソフトウェア技術、文化 (表現)、ネット (みんな)の3要素で成立。この3つが日本の強み。
デジタルやITで日本は負け続けた。デジタル敗戦といわれている。教育のデジタル化はOECDで最低。パソコンは小学校で6人に1台しかなかった。
DXが進まなかったのは、教育、医療、行政のパブリック部門と経営者、日本は医者と先生と社長がネックだった。昭和の勝ち組の成功体験がデジタル化を妨げてきた。DXの遅れが日本の没落の原因。1989年、日本は競争力ランキングで1位だったが、今は34位。経済力だけでなく、教育、暮らし環境などでも評価が低い。アジアの低賃金の国から労働力を受け入れるという上から目線は通用しない時代になっている。
コロナによって私たちの暮らしは変わった。失ったものもあるが、得たものもある。元に戻したいものは、ライブ、お笑いの劇場、スポーツの試合など。得たものは、ライブ配信、eスポーツ、「あつまれどうぶつの森」のゲームなど。
仕事や学びも変わった。コロナをきっかけに子供一人1台パソコンが一気に進んだ。新しい働き方としてのテレワークも進んだ。ハンコ、紙の資料、大学の大教室などいらなかったものがハッキリと分かった。学校も会社もデジタル対応の格差がはっきりした。
CiPの取り組み
アフターコロナの日本の強みを活かした街づくりとして、テクノロジーとポップカルチャーが集まった国家戦略特区を東京のベイエリア竹芝に作っている。CiPという。通信、放送、音楽、IT、アニメ、ゲーム、広告などの企業、業界団体50社、慶應義塾大学、東京大学、理化学研究所などが参加。2019年9月に街開き。シリコンバレーとハリウッドを詰め込んだような街を目指す。新しいスポーツの開発、数百体のロボットが仕事をする街、ドローンタクシーを5Gで飛ばす街、いろんな乗り物を開発して動かす街、新しい技術を実装実験する街を作っている。今後、同じような取り組みを進めている内外の都市と連携していく。
情報経営イノベーション専門職大学 (iU)の創設
2020年にiUという名の新しい大学を作り、学長に就任した。カリキュラムはITとビジネスと英語、本キャンパスをスカイツリーのある墨田区、サテライトを竹芝においている。授業はすべてオンラインだが、キャンパスは大事でキャンパスでないとできないことをやる、教員の8割は産業界出身、ITとビジネスのプロが教える、客員教授が400名以上、学生1学年200人、今は2年生まで、学生より教授の方が多い大学。連携企業は250社以上、最大の特徴が全員起業、4年の間に1回は起業することを義務化、就職率ゼロ (全員起業なので)を目指している。実際は9割は失敗する、失敗から学ぶことが多い。アフターコロナは入学してくる学生たちが作る。世代交代を促すこと。若い学生はコロナはチャンスと捉えている。こうした人材が日本を変えていくことになると確信している。